中高年 リストラ転職後 ― 退職勧奨をする部下の対処方法
別の部署から、専門性の全く違う私の部署に来て、私の部下になった井上さん(仮名)は、やはり仕事はできませんでした。なので、私自身やりたくなかったのですが、退職勧告をすることになりました。この退職勧告を受け入れることによって、井上さんの将来が開けてきます。なんと、私の部下の時は平社員で、平社員のランクが落ちることが決まっていました。ランクが落ちるので年収も結構落ちます。それが、内資系大手企業に転職が決まることになりました。しかも、課長職で、年収も20%アップです。まさに奇跡の大逆転です。
この記事では、実際の私の部下だった井上さんが、どのように退職推奨を受け入れて、良い転職を勝ち取り、大逆転を掴んだかについて、要点をかいつまんでお話させていただきます。まさに、上司も部下も真剣勝負の人間ドラマでした。今から振り返ると、井上さんも私もよく真剣に向き合ったなと感慨深く思います。
なかなか覚悟を決めない井上さん
井上さんの専門性のある部署でも、通常の人の3分の1程度の仕事すぃかできなかったのに、全く専門性のない部署に来てやって行けるというメンタリティが凄いとは思います。
振り返ってみると、それは井上さんの今までの転職経験から来ているものだということを私は理解することになりました。
井上さんは、元々、内資系の中堅企業で働いていたのですが、更なる飛躍を目指して、大手外資系企業に就職されたとのことでした。そこで、4年ほど勤めた後、私が働いている会社に転職されたそうです。当時の社歴は、私よりも2年ほど長かったと記憶しています。ただ、大手外資系企業をなぜ4年で辞めたのかに関しては、歯切れが悪かったです。
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そこでは、リストラをしていて将来性がないと思ったから、この会社に転職してきたのです。
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いや、でもあの職種はどの会社でもある程度の需要はあって、絶対になくてはならない仕事でしょう。
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そうなんですが、当時、あの会社は事業所の再構築をしていたので、人員を減らすという会社の方針だったのです。
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え、じゃ、井上さんは辞めてくれって言われたの?
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いえ、私は会社に残ってくれと言われていました。その当時の上司は、未だに帰ってきて欲しいと私に連絡してきます。
私から、将来性を考えてこの会社に転職したのです。
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じゃ、なんで全く専門性のない私のいる部署に異動したの?
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いえ、私は会社に残ってくれと言われていました。その当時の上司は、未だに帰ってきて欲しいと私に連絡してきます。
この仕事に興味があったので、挑戦してみたいと思ったのです。
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この会話の流れから、井上さんの言葉をそのまま受け取ることはできませんでした。
私は、何度も井上さんに、私のいる部署で仕事を続けるスキルはないと思うと口を酸っぱく言っていたのでした。たとえ話で言うなら、30代後半の漁師さんに、コンピュータのプログラミングを教えることはできません。しかも、普通に考えたら、どの漁師さんも30代後半から、コンピュータのプログラミングをしようとしないでしょう。なぜだと私は、全く理解できませんでした。
ただ、一つの前提を崩せば、理解できるようになります。その漁師さんが、漁師さんとしての能力が著しく低く、魚を取れない場合です。つまり、漁師失格の場合です。その場合ならダメ元で、コンピュータのプログラミングの仕事に異動しますよね。どうせ、漁師では食っていけないのですから。
じっくり話を聞くと、内資系の中堅企業から変に欲を出して外資系大手会社に転職などしなければ良かったと発言されていました。どうも、想像するに、その外資系大手会社で、居心地が悪くなって、今の会社に転職したのでしょう。そうすると、話が全て通じます。
しかし、井上さんがこのまま今の部署にいても、仕事にならないことだけは事実なので、やはり専門性のある分野に戻るようにと、下記の記事のようにアドバイスしました。
仕事量を半分にするので、今の部署から異動するようにと言って、3か月様子を見ました。3か月目の結論が今の部署でやりたいとのことでした。明らかに、社内外での異動を打診したけど、上手く行かなかったようです。
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私では、これ以上井上さんをうまく指導できないので、同じ部署にいたい場合は、別の上司を見つけるようにしていただけませんか?
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それによって、私が指導力不足でそれなりのペナルティを受けるのなら、それは甘んじて受けます。
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フロンテさんの下でいいです。
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、、、
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同じ部署の他の同僚数名に、井上さんの指導をお願いしましたが、完全に断られました。当然ですよね。30代後半の漁師に、誰がプログラミングを教えようとするんですか?いないですよ。権田部長の無茶苦茶な人事で、私は本当に泣かされました><
人事部と部長と私の3人で井上さんのPIPを行う
竹下部長は、本当にその点は親身になってくれて、井上さんのPIP(パフォーマンス改善計画)に力を貸してくれました。人事部と話したところ、必ず竹下部長、人事、私の3人セットでPIPを行うように言われました。井上さんと私二人だと、パワハラを訴えられた場合、私が窮地に陥るので、絶対に、井上さんにネガティブな評価を伝えるときは、1人で伝えずに、3人でタグを組んで、客観的に伝えるように言われました。更に、井上さんの意志もできる範囲で尊重して、井上さんの成長を手助けするようにともアドバイスを受けました。
PIPは、3か月行います。そして、パフォーマンスが改善されない場合は退職勧告になります。ただ、井上さんが希望するか、クレームを言えば、もう一度PIPを行うこともあるとのことです。つまり、もう三か月PIP(パフォーマンス改善計画)を実施することになります。正直かなり大変です。
Below Standards Performance Notice
最初のPIPを行う前に、Below Standards Performance Noticeというプログラムを1か月行い、そのプログラムでパフォーマンスが良くないという判断がされれば、PIPになります。いきなりPIPをするのは、やはり問題があるとのことです。主観ではなく、客観的な事実を元にPIPを行わないという人事の方針です。
[box01 title="Below Standards Performance NoticeとPIPのパフォーマンス改善計画の実施では"]
1)1か月に1回、3人セットと井上さんと一緒に目標をセットします。
2)毎週、進捗状況を私がチェックして、アドバイスをします。(この時は、彼のパフォーマンスを評価しません。評価は3人セットでします。)
3)いつでも井上さんから求められれば、サポートとアドバイスをします。(ただし、井上さんの仕事を私がする訳ではないです。本当は、私がした方が早いですが、、、)
4)1か月に1回、3人セットで井上さんのパフォーマンスの評価をします。「順調」や「順調でない」という表現を使います。決して個人攻撃にならないように細心の注意を払います。
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結局、私が井上さんの目標をセットして、人事と竹下部長に根回しをして同意を貰います。井上さの評価である進捗状況(マネージャーコメント)を私が書き、これも事前に人事と竹下部長に根回しをします。井上さんの評価である進捗状況(マネージャーコメント)に関して、井上さんは自分自身の評価を書き、進捗状況(社員コメント)として、マネージャーの評価に対して自分自身の意見をいうことになります。
とても大変です。2度とやりたくないです。結局私は、井上さんのパフォーマンス改善計画の実施に6か月携わることになりました。自分自身の業務をしながらなので、正にヘトヘトの状況でした。
結果は、彼のパフォーマンスは、「順調でない」ということで、退職勧奨に至りました。決定打となったのは、必ずクリアーできる目標設定がクリアーできなかったことです。PIPでは、通常の目標に加え、チャレンジングな目標(達成しにくいが井上さんの成長に繋がるもの)、まずクリアーできる目標(これができないといくら何でも業務は続けられないでしょうというもの)の3つの分類に分けて目標を立てます。もちろん、この目標で良いかは、最初に井上さんの同意を貰って、PIPを始めます。
裁判になる最悪の場合を想定して、目標が適切であったことを証明するためです。なので、必ず達成できる目標は加えるようにします。そして、達成できたという評価をするように、我々マネーシャーもある程度甘く採点します。
しかし、この必ず達成できる目標を井上さんは達成できなかったのです。これは本当に決定打でした。竹下部長も人事も、この人材配置はいくら何でも問題であるという結論に達しました。すべては、権田部長の悪だくみの結果です。
ちなみに、権田部長は実質クビになって会社を辞めていきました。「神様ありがとう!」と私は心から感謝しました。しかし、ポジションクローズによる退職なので、たんまりと割増退職金を貰ったとのことです。今も同じ業界で働かれています。中堅の外資系会社に転職されて、念願の統括部長になられました。そういう意味では、勧善懲悪「悪は必ず滅びる」という訳ではない結果です。が、これが現実世界なんでしょうね。
ようやく重い腰を上げて転職活動を始める
井上さんがPIPの結果、退職推奨となりました。その瞬間から、私の部下ではなくなりました。もう私と井上さんが直接お話をすることは、人事と竹下部長から禁じられました。
その後の遣り取りは、人事から下記のように聞きました。
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PIPが達成できなかったので、今のまま働くことはできなくなります。
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クビということでしょうか?
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労働基準法上解雇はできないので、ご安心ください。
ただ、PIPをやる前にも説明しましたが、降格にはなります。
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降格して、どこの部署に行くことになるのでしょうか?
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まだ、行き先に関しては今後色々と慎重に吟味して行かないといけないと思います。
しかし、自分自身で次の行き先を見つけられることを、推奨いたします
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退職して、転職しろというのですか?
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それも一つの選択肢です。ただ、社内でポジションを見つけられてもいいとは思います。
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ただ、厳しいことを言うようですが、社内の2つの部署で結果を出せなかったので、社内でポジションを見つけるよりは、外でポジションを見つけた方が現実的かもしれません。
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外でポジションを見つけるのは難しいと思います。
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社内に残っていただいても問題ございませんが、今回でPIPは終わりではありません。それに伴う降格も終わりではありません。
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我々が見つけた社内のポジションで結果を出せるでしょうか?
出せないと、PIPをして更なる降格になります。給料もそれに伴って下がります。
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、、、
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それよりは、今の時点で外に活路を見出すことを決断された方が宜しいのではないでしょうか?
降格されてからだと、転職活動は難しくなりますよ。
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今なら3か月間の有給休暇を差し上げることができます。その間に転職活動されてはいかがでしょうか?
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わかりました。少し考えさせてください。
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最終的には、このまま社内にいても絶対評価されることがないと悟り、転職するという決断を井上さんはされました。
素晴らしい転職先を見つける
PIPはしましたが、井上さんは、本当に性格の良い仕事のできない部下でした。井上さんの性格の良さがなければ、今回のPIPによる退職推奨に関しても非常に揉めていたと思います。PIP期間中も、マネーシャーの評価が納得できないとごねまくることができたでしょうに、それを正直に受け入れてくれました。未だに、井上さんとは個人的にも交流が続いているのは、井上さんの人徳のなせる技だと思い、感謝しています。
4年間勤めて大手外資系会社から、すんなりと私のいる会社に転職された実績が井上さんにはありました。4年間勤めて大手外資系会社からも実は、実質上の退職勧告だったのだと、私は思っています。なので、そのような状況でも、転職先を見つけてこれるのは、彼の素晴らしい才能だと感じました。
今回も、井上さんはその才能を発揮しました。良くもこんな相応しい仕事を見つけたなと感動しました。前の部署の仕事と私のいる部署の仕事の両方に精通している人でないと採用されないポジションです。井上さんはうまくアピールできたんだと思います。更に降格が決定していた平社員から、いきなり課長職をゲットしました。しかも、年収の20%アップです。更に、転職先は誰でもしている大手内資系超一流企業でした。
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わお、素晴らしいですね~~~
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どうも有難うございます。フロンテさんには色々とお世話になりました。
転職するという決断をしてよかったです。
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と満面の笑みでした。
この時ばかりは、満面笑みを私も返して、井上さんの転職を心からお祝いするとともに、今後の活躍をお祈りしました。
まとめ
井上さんは性格が非常に良かったです。仕事ができないことを除けば、井上さんとコミュニケーションするのは全く苦になりませんでした。しかも、彼は素晴らしい次の転職先を見つけるという才能がありました。そのお陰で、部下に初めて退職勧奨するという嫌な役回りも、通常の首切りのような大きなストレスを感じずにはできました。
しかし、半年という期間をPIPに費やし、部下を育成できない上司というレッテルは張られました。
超一流内資企業に20%の年収アップで課長職になれる井上さんに対する処遇が、私のいる会社ではおかしかったのかという疑問を持つ方は居られるかもしれません。結論から言うと、井上さん退職は妥当だったと私は心から思いますし、前の部署の上司も私と全く同意見でした。
前の部署の仕事と私のいる部署の仕事の両方に精通している人と、井上さんを判断したからこそ、転職先の超一流内資企業は破格の待遇で井上さんを雇ったのだと思います。もし、どちらの仕事にも精通しているどころか、半人前以下であると判断されれば、井上さんの転職先での地位は危なくなります。ここは、本当に頑張って馬脚をあらわさないようにすることが肝心です。正直、私はこの点を危惧しております。
このように、転職が成功かどうかは、転職できた時点で判断はできません。転職先に馴染み、転職先でも十分な成果を出せるようになってから、初めてその転職が成功だったと判断できます。
そういう意味で、井上さんの真の転職成功をお祈りしながら、筆をおかせていただきます。